2025.11.12

ファッション

LIFE COLOUR COLUMN

第3回 2025年秋冬コレクションから見るトレンドカラーとインテリア<グレー・イエロー・グリーン・パープル編>

 2025年秋冬のトレンドカラー・レポートの第3弾は、定番色のグレーと、新鮮なカラーコーディネートを作り出す個性派カラーについて語りたいと思います。

 前2回のレポートでは、今シーズンの主役的役割を果たす最注目カラーとして、温かみのあるブラウンと深いベリーレッドをご紹介しましたが、その次に見逃せないのがグレーです。今シーズンは特にクールで都会的なイメージをまとって登場しています。また、それらのベーシックカラーと合わせると、味わいのあるニュアンスを演出する、イエロー、グリーン、パープルにも注目してみてください。

4. マニッシュなグレー

 この秋冬は、メンズライクなテイラードスタイルがバリエーション豊かに現れています。テイラードブームは、ここ数シーズン続いているトレンドですが、今シーズンはソフトな印象のメンズファブリックや光沢など表情のある素材感を味方に、ゆったりと着こなすのが主流に。そこで、クローズアップされたのがグレー。明るめのサンドグレーから黒に近いチャコールまで多彩ですが、素材感の多様化によってグレー同士や他の色とも合わせやすくなり、コーディネートが自由に楽しめるのが今季の特徴です。

 マニッシュな装いでも、黒やダークブラウンより軽みがあり、ニュアンスが出しやすいのがグレーの魅力ですが、無難に見えすぎるのは注意が必要。バッグやベルト、帽子などの小物使いで思いがけない色を取り入れるなど、遊びも演出してみましょう。

 先ごろ惜しまれつつ亡くなったモード界の巨匠、ジョルジオ アルマーニさんの最後のコレクションでは、“華やかなグレー”がエレガントに披露されました。墨絵のようにぼかしの入ったワイドパンツは光沢素材によって表情の奥深さが増し、グレーとブルーがミックスしたジャケットからブルーの帽子まで、計算された美しい色の階調が洗練の高みを表現しています。

 ステラ・マッカートニーのファーストルックは、マニッシュなグレー一色のコーディネートでした。クラシックなメンズファブリックのジャケットコートにエナメルのロングブーツを合わせて、活動的でセンシュアルな女性像を提案。大きなショルダーバッグまでグレーですが、ブーツのエナメルの質感が遊び心と光を加えてくれるので、重くならない都会的なムードを演出しています。

★インテリアのヒント

 インテリアでもグレーは万能の色。だからこそ退屈にならないように、あえて冒険するつもりでさまざまな工夫を楽しむことを忘れないでいたいですね。光が入るバスルームであれば、明るめのグレーで日差しの変化によるムードの違いを演出してみるのも都会的な雰囲気に。

また、グレーならではの無機質な印象をテーマにして、パイプや柱など建築的構造を生かした「インダストリアル」なイメージを作るのも面白いでしょう。大胆なジオメトリック柄の壁紙を取り入れる際は、グレーなら落ち着いた雰囲気でまとまります。

また、ピンクや黄色、グリーンなど大胆な色とも相性よく、すべてを受け止めてくれる色なので、ぜひグレーをベースに冒険をしてみてください。

5. 新鮮さを添えるイエロー、グリーン、パープル

 ファッションシーンとして振り返ってみると、今年は偶然にもデザイナーの交代劇が激しく、時代の転換期を迎えたタイミングだったといえます。多くのブランドが伝統を振り返り、ベーシックを再解釈する傾向にあったこの秋冬シーズン。コレクションの傾向は全体的にクラシックスタイルを基本とする展開が多く、そこにどう新鮮さ、現代性を加えるのかという点に各ブランドの意識が集中する姿勢が見られました。

 そんな流れから色のトレンドもブラウンや深いレッド、グレーなどのベーシックカラーが目立つことになったわけですが、そのなかで生き生きとしたアクセントを添えていたのが、イエロー、グリーン、パープルなどの個性的なカラーでした。

 グッチは、今シーズンのホットアイテムである王道のファーコートを温かみあるピーチイエローで魅せ、パープルのタイツとグレーのバッグを合わせたトレンドカラー満載のルックを発表。アレキサンダー・マックイーンから移籍したサラ・バートンが初めて手がけたジバンシィでは、濁りのないレモンイエローのコートに黒のリボンが映えるクチュールメゾンのエレガンスを新鮮に提案していました。

 グリーンは、数シーズン前に流行した鮮やかな色調より少し落ち着いたトーンに移り、素材の違いやトレンドカラーとのコンビネーションを楽しむのがおすすめ。エルメスの2種類のグリーンのレザーの組み合わせやブラウンとのコーディネートは、上品な大人の日常着のお手本です。

 今シーズン、個性的なカラーコンビネーションで最もお手本にしたいのがミュウミュウでした。パープルのトップにイエローのスカート、という大胆な組み合わせでありながら、ブラウンのブーツやバッグのクラシックなニュアンスによってコーディネート全体をぎりぎりのラインでまとめています。レトロ感あるレディライクなブローチ使いも一役買っているのもポイント。思い切った色使いを楽しむには、引き算ではなく、プラス方向の組み合わせも時に有効です。

★インテリアのヒント

 イエロー、グリーン、パープルなどの主張が強い色は、インテリアとしてメインカラーに採用する人は少ないといえるでしょう。しかしながら、ファッションと同じように部分的に上手に取り入れることができれば、空間に活気が生まれ、フレッシュな気分をもたらしてくれます。

 イエローは、マホガニーなどクラシックなインテリアに合わせるとモダンな明るさを加えてくれます。快活なムードでありながら、温かみも感じさせるのが魅力です。中庭など、気分転換を与えてくれるスペースにあえてイエローのドアを配すると、遊び心がプラスされて、楽しい非日常感が演出できるでしょう。

 グリーンは基本的に「癒し」の色なので、違う色相のグラデーションで部屋をまとめるのもひとつのアイデア。エルメスのコーディネートのように、落ち着きのあるグリーンを質感の違いで組み合わせたインテリアも洗練されていますね。キッチンにグリーンを配すると、ナチュラルでヘルシーな気分に満たされる効果が。落ち着いたトーンを選ぶと、家具類との馴染みも良さそうです。

もしかしたら、インテリアの色としていちばん悩むのがパープルかもしれません。しかし、もともと、青系と赤系の間を結ぶ色なので、使い方によってはとても面白い効果が望める可能性があります。ブルーと組み合わせると、パープルが青の「冷たさ」を和らげてくれる役割に。くすみのある深いパープルは、ウッディな色や素材感とも相性がよく、エレガントな空間を演出してくれます。

渡辺三津子氏

渡辺三津子氏 プロフィール

資生堂の企業文化誌『花椿』から編集のキャリアをスタートし、複数のインターナショナル・ファッション誌を経て、2000年『ヴォーグ ジャパン』編集部へ。2008年に編集長に就任。2022年に独立し、ファッションジャーナリスト、コンサルタント、エディターとして活動中。

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